気晴らしの冒険

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 ……だからこその、ため息である。  どう考えても気が進まない結婚相手との、政略結婚。  断れば、国家に混乱。  私の青春は、あと数週間で、終わりを告げるも同然の状況に、追い込まれているってわけだ。 「まあ、姫様のお気持ちが沈むのは、私とて理解はしています」  と、トリネが言った。 「そう?」 「だからと言って、マナー違反を見逃すわけにはいきません」 「……やれやれ、あんたはそういうタイプよね」 「隣国に行っても、教育係の私もついて行って『指導』して差し上げますよ、姫様。これまでと同じように厳しくね」  トリネは微笑む。  厳しいような言い方ではあるが、これが彼女なりの慰めであることに気づかないほど、私も馬鹿じゃない。 「はいはい。静かにいただきますって」  私は、姿勢を正して、食事に取りかかった。  ふと、テーブルの向こう側にいる父上と母上の姿が目に入る。  すでに側近との話は終わって、私の方を見る余裕がある。  とはいえ、未来永劫の別れ(たまの里帰りぐらいはあるかもしれないが、せいぜいそんなものだ)を数週間後に控えた私を見ても、さほどの感慨はないようだ。  ――まあ、それはそうだ、とも思う。  二人にとって、私は結局、数いる子供の一人にすぎない。  世継ぎの男子でもない娘一人に、それほどの愛着を持てないのだろう。  君主としては、仕方のないことだ。  仕方のないを通り越して正しいとも言える。  ……もっとも、だから腹が立たないってわけじゃない。  いや、だからこそ腹が立つって言い方をしてもいい。  有能な『君主』をやってる二人の鼻を、なんとかあかしてやりたい気分にもなる。  とはいえ、それは――民も苦しむ道だ。  ちぇっ。  私は心の中で舌打ちしながら、スープを飲んだ。
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