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死闘
「化物が出るってよく言われるのは、この辺りですだ」
森の中を案内してくれた猟師は、そう言って足を止めた。
目の前には大きな洞窟がある。
「この洞窟に化物が巣くってるってとこかしら?」
私が聞くと、
「そんなとこでしょね」
と、猟師の答えが返ってくる。
「ふむむ。どうしようか?」
私はトリネに聞いてみる。
「外に誘き出せれば最上でしょうが」
「そう上手くもいかない、か」
「大半のケースでは。冒険者の多くは、結局は洞窟に入って……」
トリネがそこまで言った時だ。
低く大きい唸り声が、辺り一帯にこだました。
私とトリネは、それぞれ武器を構える。
次の瞬間。
洞窟の中から飛び出した、三つ頭の黒く巨大な犬が、私たちの前に姿を表していた。
「ケルベロス!」
トリネが言う。
私もその名前ぐらいは聞いたことがあった。
三つ頭で火を吐く地獄の番犬だ。
地上ではそうそうお目にかかれる相手じゃない。
「お、お助けえ!」
私たちが構えるのとほぼ同時に、猟師は一目散にその場を逃げ出していた。
元々頼んでいたのは案内だけだから、彼を責める気にはならない。
むしろ、素直にこの場を立ち去ってくれて、ホッとしたぐらいである。
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