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気晴らしの冒険
「はあ……」
私は、ため息交じりに、自分の周りを見渡した。
豪奢なテーブルに、お決まりの宮廷料理が並んでいる。
細長く巨大なテーブルの向こう側には、私の両親たる父上と母上がいる。
幸い、側近と話すのに忙しく、私のため息は聞こえなかったようだ。
とはいえ、誰にも聞こえなかった、というわけじゃない。
「シャルル様、食事中にマナーがなっていませんよ」
そう声をかけてきたのは、私のそばに立っている、お付きのトリネだ。
槍術の達人にして、各種の学問を修めた、私の教育係である高級貴族の子女で、年齢は二十五ってところ(私の九歳上だ)。
お姫様の教育係としては、申し分ない人材と言えた。
――私のため息を聞き逃さない、地獄耳なところも含めてね。
「そうは言っても、トリネ、私の気持ちも考えてよ、ため息だってつきたくなるわ」
「ご結婚を控えてらっしゃるから、ですか?」
「……分かってんじゃない」
ご結婚ってのは、隣国の王子(王子と言ったって、先王が長生きしてるもんだからもう四十歳だって)との政略結婚だ。
はっきり言って全然気は進まないけれど、かといって、「お断りします」なんてことになったら、面子を潰されたお隣は、なにを言ってくるか分かったもんじゃない。
下手すると、戦争だ、なんてことになったりして。
流石にそれは、この私だって、望んだところじゃない。
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