伸明 49

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 …ウソ?…  …ウソでしょ?…  …ありえない?…  …こんなバカなことは、ありえない!…  …絶対、ありえない!…  私は、思った…  強く、思った…  だから、席に着いた私は、  「…あの…どうして、マミさんが、司会をされているんですか?…」  と、聞いた…  聞かざるを得なかった…  すると、マミさんが、  「…寿さん…発言するときは、まず、挙手をお願いします…」  と、別人のような厳しい表情で、言った…  「…挙手をして、司会の私が、発言を許可してから、発言をお願いします…」  と、言った…  私は、それを、聞いて、これは、違う…  違う…  これまでのマミさんではない…  私の知っているマミさんではない…  そう、思った…  そう、気付いた…  そして、今さらながら、ユリコの言葉を思い出した…  私の宿敵、ユリコの言葉を思い出した…  五井の目的…  私を癌の治療のために、オーストラリアに行かせ、その費用を五井が負担する…  正直、私は、恩に感じたし、ありがたいと、思った…  自分の力で、そんなことは、できないからだ…  病院の当てもないし、費用もない…  それを、五井が負担してくれると、言う…  が、  その目的は、私とナオキを別れさすこと…  そう、ユリコは、私に話した…  五井の真の目的を喝破した…  私とナオキを離れ離れにすることで、ナオキの相談相手をなくすことができる…  それが、五井の真の狙いだと、喝破した…  私は、ナオキと、公私共に、パートナー…  実質的な夫婦だった…  もちろん、私に経営のことは、わからない…  ただ、会社で、社長のナオキの秘書をしているだけ…  ただ、会社で、ナオキのそばに寄り添っているだけだ…  が、  自慢ではないが、それだけで、ナオキの精神安定剤になったというか…  ナオキが、安心した…  FK興産の創業以来、ずっと、そばにいたというのも、大きいかもしれない…  また、なにより、私と気が合うのも、大きいかも、しれない…  だから、私とナオキは、いつも、いっしょにいた…  プライベートでは、女好きのナオキは、私とジュン君の3人で住んでいた、マンションから、早々に、出て行った…  私や、ジュン君といっしょに住んでいては、女を自宅に呼べないからだ…  だから、ずっと前に出て行った…  しかしながら、会社では、いつも、いっしょだった…  社長と社長秘書という関係で、いっしょだった…  だから、パートナー  公私にわたったパートナーだった…  なにより、ナオキの女好きは、もはや、許容の範囲内だった(苦笑)…  ナオキの女好きを治すことなど、できないからだ…  だから、私もまた、ナオキとカラダの関係は、終わったが、心は、繋がったまま…  私は、そう信じていたし、ナオキもまた、私をそう、思っている…  そう、固く、信じてもいた…  そして、だからこそ、五井は、私とナオキを別れさせたかったのだと、ユリコは、言った…  私をナオキから、遠ざけ、その間に、FK興産を、五井の支配下に置く…  うまく、ナオキを篭絡(ろうらく)する…  まるで、女が、男を…  あるいは、  男が、女を口説くように、ナオキを口説いて、FK興産を五井の支配下に置く…  それが、真の目的…  そして、なぜ、そんなことをする必要があるのか?  それは、伸明の手柄…  五井家当主になったことで、手柄が、必要になった…  当主就任の手柄が、必要になった…  手柄=実績が必要になった…  そう、ユリコは、私に説明した…  そして、私は、その説明に納得した…  会社なのだから、なにか、実績を残さなければ、ならない…  社長に就任したのなら、なぜ、社長になれたのか?  周囲を納得させる必要があるからだ…  伸明は、五井家の当主…  ただ、五井家に生まれただけで、五井のトップになった…  だから、五井のトップになったのを、誰も、文句を言わないが、それでも、やはり、実績が必要になる…  実績=手柄が必要になる…  それゆえ、FK興産に目をつけた…  FK興産に出資し、事実上、五井グループに組み込む…  そうすることで、伸明が、手柄を立てたことになるからだ…  手柄=実績を残したことになるからだ…  そして、今、マミさんが、ナオキの解任の決議を発表した…  つまり、ナオキを社長の座から、追いやり、代わりに、伸明にでも、する算段だろう…  ナオキを社長の座から、追いやることで、FK興産は、名実ともに、五井に組み込まれる…  五井の支配下に置かれることになる…  それが、わかった…  今、わかった…  だから、私は、急いで、手を挙げた…  自分の手を挙げた…  すると、  「…なんですか? …寿さん…」  と、マミさんが、聞く…  「…社長の藤原さんを、どうして、解任しなければ、ならないんですか?…」  と、私は、聞いた…  直球で、聞いた…  すると、マミさんが、間髪なく、  「…経営不振のためです…」  と、答えた…  「…経営不振?…」  「…FK興産が、経営不振に陥り、五井と、資本提携しました…その責任です…」  「…でも、それは、社長のせいでは?…」  「…会社が経営不振に陥ったのならば、それは、当然、社長の責任です…」  マミさんが、言う…  力強く言う…  私は、それを、聞いて、納得は、するが、やはり、納得は、できないというか…  どう考えても、ナオキを社長の座から、引きずり降ろす方便にしか、聞こえなかった…  だから、すぐに、  「…反対です…」  と、言った…  強く言った…  が、  マミさんは、冷たい表情で、  「…ここは、寿さんの意見を聞く場所では、ありません…」  と、私に告げた…  「…今の議題は、藤原ナオキ氏の社長の解任です…」  と、冷酷に告げた…  「…賛成の方は、挙手をお願いします…」  マミさんが、告げると、真っ先に、FK興産の社外取締役である、銀行からの派遣組が、手を挙げた…  が、  意外にも、それ以外、手を挙げる人間は、いなかった…  私は、わけが、わからなかった…  って、いうか…  冷静に考えてみると、なぜ、この場に、伸明や和子、そして、マミさんが、いるのか?  わからなかった…  どういう立場でいるのか?  それが、わからなかった…  この場所は、FK興産の臨時の取締役会…  普通に考えれば、FK興産の取締役以外は、この場にいないはずだ…  それとも、五井家の3人は、すでにFK興産の取締役になったとでも、いうのか?  考えた…  なぜなら、この私でさえ、取締役…  FK興産の非常勤の取締役だからだ…  だから、この3人も、取締役でも、おかしくはない…  そう、思った…  そして、なにより、取締役の条件…  取締役になる、前提を考えた…  私は、社長の藤原ナオキに、自宅のマンションで、告げられた…  「…綾乃さんを取締役にした…」  と、ナオキに告げられた…  私は、そのときは、仰天したし、一体、なぜ、私を取締役にしたのか?  わからなかった…  私は、少し考えて、ナオキが、私にお金をやるためだと、思った…  私は、無職…  すでに、FK興産を辞めている…  だから、お金を与えるために、私をFK興産の取締役にしたと、思った…  そうすれば、堂々と、私にお金を与えることが、できるからだ…  が、  それから、FK興産が、五井と資本提携をしたことを、知って、私を取締役にしたのは、ひょっとして、五井に対抗するため?  そう、思い直した…  なぜなら、取締役会で、採決を取るときは、当たり前だが、数が多い方が、勝つからだ…  だから、一人でも、多く、自分の味方がいた方がよい…  私は、ナオキのパートナー…  ナオキは、私を心の底から、信頼している…  信用している…  だから、私を取締役にしたと、思った…  だから、私を取締役にしたと、考えた…  おそらく、私を取締役にすると、言った時点で、すでに、FK興産は、五井と資本提携すると、決まっていたのだろう…  だから、事前に手を打った…  そう、思い直した…  そう、考え直した…  しかしながら、今、思ったのは、どうすれば、FK興産の取締役になれるのか?  それを、思った…  私は、自宅で、ナオキから、  「…綾乃さんを、FK興産の非常勤の取締役にした…」  と、告げられただけ…  だから、そのときは、深く考えなかった…  なぜ、私をFK興産の取締役にしたのか?  非常勤とはいえ、取締役にしたのか?  それが、一番の謎だったからだ…  だから、そればかり、考えた…  しかしながら、非常勤とはいえ、簡単に取締役にすることが、できるのだろうか?  社長のナオキの一存で、私を取締役にすることが、できるのだろうか?  考えた…  普通なら、社則…  いわゆる、会社の規則で、決められている…  そして、私を取締役にすることを、社長のナオキの一存で、できるのだろうか?  考えた…  あるいは、できるかも、しれない…  社長の一存で、できるかも、しれない…  しかしながら、普通は、多数決…  FK興産は、取締役が5人だから、3人以上の同意があれば、私を取締役にすることが、できる…  そして、その3人は、社長のナオキを筆頭に、FK興産の古参社員3人が、同意すれば、私を取締役にすることが、できる…  要するに、外部の取締役…  銀行から、派遣された、社外の取締役が、同意しなくても、私を取締役にできる…  だから、これは、推測だが、おそらく、ナオキは、FK興産の古参社員出身の取締役二人の了承を事前に取って、私を取締役にしたのではないか?  と、いっても、これは形だけ…  FK興産は、事実上、ナオキのワンマン企業…  古参社員出身の取締役二人が、ナオキに逆らうことは、ありえない…  なぜなら、FK興産が、今のように、大きくなる過程で、ナオキは、多くの社員を切って来た…  切って=リストラしてきた…  それを、間近に見てきた彼ら、古参社員出身の取締役二人が、ナオキに逆らえるわけは、ないからだ…  だから、ナオキの一存で、私を取締役にできた…  そういうことだ…  そして、それを考えたとき、  「…失礼ですが、諏訪野マミさんや、諏訪野伸明さん、諏訪野和子さんは、どういった立場で、この臨時の取締役会に出席しているんですか?…」  と、聞いた…  直球で、聞いた…  当たり前だった…  それに、なにより、ここは、FK興産…  私が、ナオキや、ここにいる、FK興産の古参社員たちと、心血を注いで、育て上げた会社…  たとえ、五井といえども、外部から、やってきて、上から目線で、あれやこれや、言われるのが、我慢がならなかった…  まして、社長のナオキを解任するなんて…  許せるはずがなかった…  だから、聞いた…  一体、どういう立場で、このFK興産の取締役会に、五井家の人間が、出席しているのか?  聞いた…  聞かざるを得なかった…  すると、マミさんが、  「…寿さん…FK興産は、五井と資本提携をして、FK興産の株は、社長の藤原氏と、同等であることを、思い出して下さい…」  と、冷たい口調で、言った…  「…つまり、現時点で、FK興産の株に関しては、社長の藤原氏と、同等…でも、今後、会社を立て直すには、五井の援助が欠かせない…そうでなければ、遅かれ早かれ、FK興産は、立ち行かなくなります…倒産します…」  マミさんが、冷酷に続けた…                <続く>
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