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「さすがは第二王子殿下だ。そのお力、もっと民草のためにお使いになってはいかがですか?」
来た。知っている。これは、〝フラグ〟の一つだ。俺は前世で思いっきりYESと答えて大変な目に遭った。俺にこの台詞を吐き、王位を狙うよう持ちかけてきたのは、今から十年後に宰相になるアルバース子爵家のユーリスだ。現在彼は二十三歳。俺は十三歳。そして現在十七歳の俺の異母兄とユーリスは将来的に手を組んで、俺を社会的にも生命的にも抹殺する。俺は、しっかりと覚えている。
◆◇◆
俺の生まれた国であるワールドエンド王国には、始祖王の伝承がある。なんでも建国した始祖王は、ゲンダイニホンという異世界からの転生者だったらしい。始祖王は大陸中を旅したそうで、そのため世界中に、生まれ変わり伝承が根付いている。異世界ではカガクというものが、この大陸で言うところの魔術のように溢れているそうだ。もたらされた文化や言葉も数多く存在している。
俺は死ぬ間際に願った。それはもう強く願った。
生まれ変わったらゲンダイニホンに行きたいと。異世界で幸せに暮らしたいと。
それがかれこれ、三十三年と十三年ほど前の事だ。
その時俺は、辺境の掘っ建て小屋に軟禁されていた。食事は日に一度、水のように薄いスープと固くて噛めないパン一切れ。前世で俺は二十五歳歳で軟禁され、三十三歳で処刑された。
俺、結構頑張ったと思ってたんだけどな。
まぁいい、もう昔の話は忘れよう。いいや、忘れてはいけないのだけれども。
「俺の召喚獣の召喚魔法円の在り処? ラクラスを従えたけりゃ勝手に探せ。あいつが貴様らに制御できるとは思わないがな」
その言葉を最後に俺は処刑され……目が覚めると眩い光に包まれていた。
おぎゃあおぎゃあと自分が泣いている事を、冷静な理性が理解していた。
俺を抱きかかえているのは、黒い髪に緑色の瞳をした美女だった。
その姿は、絵画の中だけで知っている早くに亡くなった母にそっくりだったから、初めは天国あるいは地獄へ来たのかと思った。しかし続いて涙を流して笑いながらこちらを覗き込んできた青年を見て身が竦んだ。異母兄にそっくりだったからだ。違うのは、彼は青い目をしていて、兄は紫色の瞳だったということだけだ。しかしこの色彩にも見覚えがあった。父上にそっくりだ。父上も若くして流行病で亡くなった。やはりここはあの世なのか? そう考えていたら、感極まったというような声が響いてきた。
「私とミラルダの子だ。名は、フェルとしよう。第二王子の生誕を祝う宴を!」
……ん?
そこで俺は、思考が停止した。
フェルというのは、紛れもなく俺の名だ。そして俺も第二王子だった。
ミラルダは亡くなっている母の名だ。その上父にそっくりの人が、今世でも父親らしい。
いやちょっと待て、これって、これって、そのまんま俺じゃないのか?
――いいや、まさかな、気のせいだ。
最初こそ、そう言い聞かせたものの、現実は残酷だった。
わずか零歳にして、俺は文字も会話も理解できた。当然だ、死ぬ前から変わっていないのだから。俺の側からはまだ喃語がせいぜいといったところだったが。
そう、そうなのだ。
もしも生まれ変わったら異世界へと思っていたら、転生先も俺だったのである。
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