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その時、これまで胸飾りをはじめとする展示品にほとんど関心を示さずにいた、田村義則という四十代半ばの男性が、少しいらだった様子で部屋の隅から綾部渡に声をかけた。
「綾部さん、そろそろいいんじゃないか? 皆、レプリカ見物はもう十分だと思っているよ」
「田村さんもコレクターでしてね。最近ある品物を手に入れようと、綾部さんと競り合ったらしいんですよ。まあ、売り手の方は田村さんを当て馬にして値をつり上げただけで、最初から綾部さんに売るつもりだったようなんですが……。そんなわけで、ご覧の通り、田村さんは少々ご機嫌斜めなんです」と、萩野は柏木にささやいた。
「ああ、田村さんのお目当てはこちらのほうでしたね」
綾部はそう答えると、アンティークの宝石箱の置かれたテーブルに歩み寄った。
「さて、先程スカラベについて大変興味深いお話をしていただいた昆虫学者の柏木准教授ですが、類いまれな推理力で数々の難事件を解決してこられたことでも知られています。ここでぜひその推理力の一端をうかがわせていただきたいと思うのですが、先生、いかがでしょう?」
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