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「講演にそんな余興がついてくるとはね。事件の話はしないって約束だけじゃ足りなかったか……」
柏木が苦笑しながらそうつぶやいた時、南青山にあるアンティークショップの店主だという萩野浩二が話しかけてきた。
「それにしても、変わった女性ですね」
「まあ、女性としては珍しいものに関心がある、とは言えるかもしれませんね」
「あ、いや、個性的な女性、というべきでしたね」
柏木の冷淡な口調に気づくと、萩野はあわててそう言い直した。年齢は四十歳前後、ライトブルーのストライプのシアサッカージャケットのサイズが全く合っていないところを見ると、最近急激に太ったらしい。
「寄生虫や蜘蛛なんて、話題になっただけで並の女性なら身震いしそうなものなのに、目を輝かせて先生のお話を聞いているんですからね。もちろん、柏木先生のすばらしい話術があるからこそですが……。いや、決して玲香さんのことを悪く言うつもりはありません。私どものような商売を支えてくださっているのは、あのご夫妻のような、ユニーク極まりない方々なんですから……」
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