玉蝉(ぎょくせん)

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 綾部はさらに、韓国の新羅(しらぎ)時代の古墳から出土した玉虫装飾の鞍のレプリカも作らせる予定だということだった。  それにしても、玉虫の美しさはやはり格別だと、柏木は杏葉を見つめながら考えた。生まれて初めてヤマトタマムシを捕まえた日のことは、今でも鮮明に覚えている。小学五年生の夏休みに飯田市の親戚の家を訪れていた時、三つ年上の従兄から、近くの雑木林に玉虫がいることを教えられたのだった。全身を金属光沢に覆われた、緑と赤の帯のあるこの大型の昆虫が夏の日差しに輝く姿は、生き物というより精巧な宝石細工のようで、目眩(めまい)のしそうな胸の高鳴りとともに、自分がこのように美しいものを手にして良いのだろうかという畏怖(いふ)の念さえも抱かせた。  古代人も彼と同様にこの虫に魅せられ、神聖な仏像を納める厨子(ずし)や、権力を象徴する馬具にその羽で装飾を(ほどこ)したのだった。様々な古墳から出土しているのだから、装飾馬具の中でも特に貴重なものだったのだろう。 「あ、そうか!」  柏木は小さく声をあげると、晴れやかな笑顔を浮かべた。
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