玉蝉(ぎょくせん)

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「古代中国には、埋葬の際に宝玉(ほうぎょく)を死者の口に含ませたり、手に握らせたりする風習がありました。そして、その口に含ませる石が(せみ)の形をしている場合、玉蝉と呼ばれたんです。蝉は羽化して幼虫とまったく異なった姿になることから、復活の象徴とされたんですね。玉蝉そのものは数多く出土していますが、綾部さんのコレクションは非常に地位の高い人物のもので、最上級の翡翠(ひすい)が使われているんでしょう」 「さすがは柏木先生、すべてお見通しだ……。では、早速(さっそく)ご覧いただきましょう」  綾部が箱の置かれたテーブルに近づこうとした時、突然激しい破裂音が階下で響き渡った。 「何だ?」 「パンクじゃないのか?」  困惑した人々がそのような言葉を交わしていた時、第二の破裂音が起こった。 「銃かもしれない。窓から離れて!」と萩野が叫び、女性達は(あわ)てて夫のもとに走った。  人々はさらに破裂音が続くのかと、しばらく無言で耳をそばだてていた。だが、それ以上の物音はなく、異常な事態が生じたことを示すような人声もなかった。
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