玉蝉(ぎょくせん)

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 やがて、萩野が意を決したように窓辺に近づいた。 「気をつけてくださいね」  不安そうに声をかける剣持夫人に笑顔で手を振って応えると、萩野は窓を開け放って慎重に路上の様子を(うかが)った。窓が開けられた途端(とたん)に、夏の日差しに(さら)され続けたアスファルトの熱気と夕暮れ時の喧噪(けんそう)とが、エアコンの効いた室内にどっと流れ込んできた。 「やっぱりパンクだったようですね。タイヤの交換中だ……。二本パンクしたようだったけれど、どうするのかな? スペアは一本しか積んでいないだろうし……」 「とにかく、物騒な事件の(たぐ)いじゃなかったわけだ。綾部さん、ご開帳(かいちょう)のやり直しをどうぞ」と、田村が綾部をうながした。 「分かりました。では改めて、こちらが二千年の時を経たと思われる玉蝉の逸品です」
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