玉蝉(ぎょくせん)

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 田村は機嫌の悪さを隠そうともせずに答えた。 「玉蝉を買わないかともちかけてきたのは?」 「宋文堅(そうぶんけん)というブローカーだ。(なま)りもあったし、中国人だろう」 「お会いになったんですか?」 「電話のやり取りだけだ」 「以前からお知り合いで?」と堂島が尋ねた。 「いいや、十日ほど前、いきなり携帯に電話してきたんだ」 「綾部さんのほうはいかがですか?」 「ああ、僕もまったく同様です」 「ただ、お会いになってはいますよね」 「ええ、新宿駅前の喫茶店で待ち合わせて二度……」 「年齢は?」 「四十歳くらいですかね。名刺も(もら)いましたよ。事務所の住所は、確か中野区だったと思います」  その時、堂島のスマートホンに前園からメールが届いた。堂島は素早くメールを読み終えると、柏木に言った。 「宝石箱から検出された指紋は二種類。綾部さんと、萩野さんのものです」 「そうでしょうね。先程申し上げた通り、このジュエルボックスは先日私が納品したものですから、私の指紋も当然ついているはずです」と萩野が言った。
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