玉蝉(ぎょくせん)

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「納品した際、何を入れるつもりだとか、綾部さんからお聞きになったりしませんでしたか?」 「いいえ、何も」 「僕の記憶でも、そうした話はしなかったと思います」と綾部が付け加えた。 「分かりました。ありがとうございます。萩野さん、これを仕入れられたのはいつ頃ですか?」と、柏木はさらに萩野に尋ねた。 「ええと、三年程前だったかな。ロンドンの骨董市(こっとういち)で見つけたんです」 「堂島さん、ちょっと触ってみてもいいですか? 前園君にもらった手袋をつけますから」  柏木は宝石箱に目をやりながら堂島に言った。 「指紋の検出は終わっているし、構いませんよ。で、何を調べるおつもりですか?」 「犯人が玉蝉を盗んだ時、誰もオルゴールの音を聞いていないんで、どのくらいの速さで開閉すればオルゴールが鳴らないか、確かめておきたいんです」 「なるほど」  柏木は両手に使い捨ての手袋をつけると、オルゴールのネジを巻き、速度を変えながら開閉を繰り返した。
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