玉蝉(ぎょくせん)

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「一秒くらいで閉めてしまえば、オルゴールは鳴り出しませんね。玉蝉を盗むには十分な時間だ。綾部さん、玉蝉はどんな風にしまってあったんですか?」 「赤いベルベットの布にくるんで入れておきました」 「香水の匂いがしますね。これは綾部さんが?」 「いいえ。買った当初からこの匂いがしていました」 「分かりました……。ところで田村さん」  柏木は田村のほうに向き直って尋ねた。 「田村さんも萩野さんからアンティークをお求めになっていますか?」 「俺が、この男からアンティークを? いいや」  田村は侮蔑(ぶべつ)の念を(あら)わにして答えた。 「そうですか、どうも。さてと、そろそろ届きそうなものなんだけれど……」  柏木がそうつぶやきながらドアを開けて廊下の様子をうかがった時、バイク便の配達員がエレベーターから降りてきた。 「いいタイミングだ」  柏木は満足そうに微笑むと、配達員に手を振った。 「何が届いたんですか?」  堂島が荷物を受け取った柏木に声をかけた。 「警察犬の代わりです」 「警察犬?」 「ええ、これです」
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