玉蝉(ぎょくせん)

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 柏木はボール紙製の大型封筒から透明なプラスチックの(つつ)を二本取り出すと、堂島の眼前に差し出した。筒には通気性の良いスポンジの(せん)がされていて、中には体長一センチ程の小さなコガネムシが一匹ずつ入っていた。頭部や前胸部は緑色で前翅(ぜんし)は褐色、全身に金属光沢があり、小さいがなかなか美しい。 「このコガネムシ君たちに、犯人を嗅ぎ当ててもらおうというわけです」  柏木は筒を軽く振って見せながらそう言うと、いく分困惑した表情の堂島に笑いかけた。  柏木は貴金属店の店主、今野に新たな丸テーブルとハサミ、そして数枚の紙を用意して欲しいと頼んだ。程なく準備が整うと、柏木は科学の公開実験の講師を務めているかのような口調で、これから行おうとしていることを人々に説明した。
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