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皆が息を飲んで見守る中、テーブルの中央に置かれたコガネムシは、萩野の席に向かって一直線に進んでいった。虫を置く方向を変えてやり直しても、コンパスの針が北を指すように、虫はくるりと萩野のほうに向き直って進んでゆくのだった。
「馬鹿な!」
萩野はすっかり動転して叫んだ。
二匹目のコガネムシを使っても、結果は同じだった。
「結論が出ましたね。萩野さんに香水の匂いがついています」
「でたらめだ。嘘っぱちだ、こんなもの!」
「しかし、専門家による実験の結果ですから」
堂島は萩野を見つめながら、冷ややかに言った。
「冗談じゃない。インチキだ、こんなこと、絶対あり得ない」
萩野はさらにわめいた。
「手袋も布も、とっくに処分したし」と柏木が言った。
「ああ、そうだ。香水の匂いなんてするはずないんだ。それをこんな……」
不意に萩野の言葉が途切れ、室内は静寂に包まれた。
やがて、柏木が穏やかな笑みを浮かべながら沈黙を破った。
「ええ、実験の結果は撤回しても構いませんよ。玉蝉を盗んだことを、ご自身が認めましたからね」
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