玉蝉(ぎょくせん)

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 柏木の話が終ると乾杯のためのシャンパンが用意され、老舗(しにせ)呉服(ごふく)店の店主、剣持耕太郎が乾杯の音頭(おんど)を取った。  剣持は胸飾りの発注者である綾部を近来まれな趣味人と(たた)え、その期待に手間暇(てまひま)惜しまぬ丹念な仕事で応えた店側の努力をねぎらうなど、長年商店会の会長を務めているだけあって、(どう)に入った話ぶりでそつなく挨拶をまとめた。  乾杯が済むと、この貴金属店の店主である今野友蔵が、部屋の中央付近に置かれた丸テーブルに歩み寄り、緋色(ひいろ)の布の覆いを取り除けて、完成した二つの胸飾りを披露した。スカラベをモチーフとした胸飾りは、ツタンカーメン王の墓からかなりの数が発見されているが、今回レプリカが作られたのは特によく知られているものだった。  一つ目はスカラベがリビアングラスという、隕石の衝突で出来たとも言われている黄色味を帯びた天然のガラスで作られたもので、二つ目のほうは、藍青色(らんせいしょく)の鉱石、ラピスラズリで作られたスカラベが、橙色(だいだいいいろ)のカーネリアンで表された太陽を掲げていた。
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