玉蝉(ぎょくせん)

6/34

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 会場には丸テーブルが六台あり、中央の二台を囲むように配置された四台には、古代中国の蜻蛉玉(とんぼだま)や、船原(ふなばる)古墳出土の玉虫(たまむし)装飾馬具(そうしょくばぐ)のレプリカといった、綾部自慢のコレクションが並べられていた。中央のもう一台のテーブルには、オルゴールのついたアンティークの宝石箱が(ふた)を閉めたまま置かれていて、パーティの趣向がまだ何か残されていることを匂わせていた。  呉服店主の剣持耕太郎が妻の幾代を伴って、講演の感想を伝えようと柏木のもとにやってきた。他の男性達が夏物のジャケット姿であるのに対して、仕事柄(しごとがら)当然とはいえ、涼しげな(しゃ)の着物を妻とともに(いき)に着こなしている。 「柏木先生、お忙しい中、先程は興味深いお話を有難うございました。私などは虫なんて着物の(がら)くらいでしか馴染(なじ)みがなくなっていたんですが、考えてみれば、日本人は昔から虫の鳴き声を()でる文化を持っていたほどなんですから、自分ももっと関心を持つべきだと気づかされました」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加