玉蝉(ぎょくせん)

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 八月上旬の夕方、柏木祐介は八人の男女を前に、タマオシコガネの生態を紹介していた。人々が(つど)っているのは銀座の貴金属店の五階にあるイベントホールで、宝飾品(ほうしょくひん)コレクター、綾部渡がこの店に特注したツタンカーメン王の胸飾りのレプリカが完成し、披露パーティが行われているところだった。綾部は昆虫マニアでもあり、胸飾りの主要なモチーフがスカラベ(ヒジリタマオシコガネ)であるため、柏木にパーティの場で講演を行って欲しいと依頼してきたのだった。  柏木は古代エジプト人が(ふん)を転がすタマオシコガネを、太陽を運ぶ太陽神の化身と考えて神聖視したことや、ファーブルの名高い研究に基づいて、タマオシコガネが幼虫のために洋梨(ようなし)型の特別な糞球(ふんきゅう)を作ること、その梨玉がいかに合理的な構造を持っているかといったことを語った。
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