蠱惑Ⅱ『酒仕込み唄』

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蠱惑Ⅱ『酒仕込み唄』

 半年前に社員旅行がありました。酒蔵見物で全員がバスから降りました。一階は店舗。試飲コーナーで飲み比べては、これが甘いのとか、これは辛口だなとか、素人が分かったような口利きで盛り上がっていました。二階は倉庫で立ち入りが禁止されています。三階が資料館で見学が自由です。店側の説明ガイドはいません、見学自由なスペースとなっていました。この酒蔵は200年前に創業しましたが震災の影響を受けて10年前に廃業したそうです。昔ながらの製造過程やら、使用した小道具が棚に陳列されていました。大きな酒樽の横に半年前に社員旅行がありました。酒蔵見物で全員がバスから降りました。一階は店舗。試飲コーナーで飲み比べては、これが甘いのとか、これは辛口だなとか、素人が分かったような口利きで盛り上がっていました。二階は倉庫で立ち入りが禁止されています。三階が資料館で見学が自由です。店側の説明ガイドはいません、見学自由なスペースとなっていました。この酒蔵は200年前に創業しましたが震災の影響を受けて10年前に廃業したそうです。昔ながらの製造過程やら、使用した小道具が棚に陳列されていました。大きな酒樽の横に半纏を着た杜氏の人形が三体あります。二体は樽の中をかき混ぜる仕草をしています。もうひとりは酒の仕上がり状況を見ているのでしょうか、厳しい顔を半纏を着た杜氏の人形が三体あります。二体は樽の中をかき混ぜる仕草をしています。もうひとりは酒の仕上がり状況を見ているのでしょうか、厳しい顔を樽に寄せています。壁には仕込み唄が大きく書かれていました。『はあよいさのこら~さ 酒の神様、おなごを嫌う、されど親方いい男~やれさ~のほいさ~ やれどっこいさ~の~こ~らさ~』杜氏の人形の声が今にも聞こえてきそうな気がしました。しかしお世辞にも面白いとは言えない資料館でした。酒造りに興味のある方ならまだしも、酒など飲むだけが趣味の私にはその歴史に触れることなどまったく面倒なことでした。私を含め25名が会計と庶務課の社員です。この酒蔵見物の時間は15分です。トイレ休憩を兼ねた一時的な立ち寄りです。買い物以外に時間はありませんでした。店のガイドがいるならともかく、土産の送り先を書くのに順番待ちしている彼等に資料館見学の余裕などありませんでした。私は悔しくなりました。私だけが三階まで上って興味もない資料館見学をしたのが腹立たしくなりました。誰かを騙して足を運ばせようと醜い意地悪を思い付きました。 「いやあ素晴らしい、酒蔵の全てが分かる資料館だよ。この酒蔵の歴史が詰まっていて感動すらした。たまげた」  私はレジに並ぶ若い同僚の前で声を上げました。しかし一瞬振り返るだけで、レジを終えても階段を上がる者はいませんでした。 「香川さん、そんなに面白いでしたか?」 「ああ、酒飲みなら見ておくべきだね。見なきゃ人生の損するね」 「そうですか、どうする?」  三人のうちの二人が悩んでいます。時計を見ると集合時刻まで5分しかありません。ですが5分あればさっと見て廻れます。
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