蠱惑Ⅱ『酒仕込み唄』

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 旅行の翌日は日曜日で休みです。毛利に三度ラインしました。すぐに既読になりますが返信はありません。毛利は同僚に迷惑を掛けてしまい返信するのも辛いのではないかと、いい方に解釈しました。明日になれば『すいませんでした』とみんなの前で頭を下げるシーンを望んでいました。そして出勤しました。いつもなら私より早く来て、屋上でストレッチをしています。私は鞄を机に置いてすぐに屋上に行きましたが毛利の姿はありませんでした。そんな日が10日も続きました。 「香川さん、毛利君のこと、何か聞いていませんか?」  課長に呼ばれました。 「すいません、連絡はしているんですが返信が無くて困っています」 「みんなに聞いたらすぐに既読になるそうじゃありませんか、それでいて返信が無いのは無責任か、または何かあったのか。もしかしたら彼のスマホを他の人が持っていることもゼロではありませんよね」 「課長は毛利が犯罪に巻き込まれたとおっしゃるのですか?」 「いや薄いと思いますがその可能性もあるでしょう。そうでなければ無責任も甚だしい。撤退していただくしかない」 「もう少し、待ってやっていただけませんか。お願いです」  毛利がいなくなると私が寂しくなります。同じ高卒で何か親近感があります。それに私を慕ってくれています。資料館に上がったのも私の腹立たしさを汲み取ってくれたからです。私の意地悪だと知っていて、面白くもない資料館にわざわざ見学に行ってくれたのです。 「香川さん、毛利君のご実家にも連絡しなければならなくなります。その前に何とか見つけ出して欲しい。辞めるなら辞める、それは仕方のない事ですが、中途半端なままでは会社も責任を問われます。そうだ香川さん、あの酒蔵に行って、足取りを辿っていただけませんか」  課長は初めから私を酒蔵に行かせるためにわざわざ足を運んだのでしょう。毛利の進退をはっきりさせたかったのです。私が会社に居てもいなくても体勢に影響はありません。私は毛利の自宅アパートに行き、いなければその足で酒蔵に向かうことにしました。
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