第二章 嫉妬深い彼

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始業時間が過ぎてからも三内さんの何かを詮索するお喋りは続いていた。 「もしかして失恋でもした?」 「……」 「あー、でもそれはないか。香村さん程の女が失恋ってないよね~」 「……」 いちいち鋭い三内さんの会話に付き合っているのが辛くなり、その場から逃げ出したい衝動に駆られたその時「こぉら、まーた無駄話を咲かせている」そんな言葉と共にパカン、パカンと軽やかな音が響いた。 「痛ぁい! 課長、またですかっ」 「……」 斎木課長が丸めた紙束で私と三内さんの頭を叩いた。 「またですかとは? 何をいっているのか分かりませんね」 「頭を叩かないでくださいっていいましたよ」 「僕も前にいいましたよ、無駄口は叩かないようにと」 「むぅ~~~」 三内さんがむくれているのを横目に私は斎木課長に頭を下げた。 「課長、すみませんでした」 「香村さんは例によって三内さんの巻き込まれ被害者ですね」 「……」 「此処にいる間は業務に没頭してくださいね」 「……はい」 隣で三内さんはブツブツいっていたけれど私は課長に救われたと思った。 (凄いな……色んな処に目を掛けているんだ) 何気なく斎木課長の動向を気にしていると課長は忙しなく各部署を移動して何かの指示をしていた。 自分のデスクに戻ってしばらくジッとしていても電話を取ったり、書類を作成していたり、指示を仰ぐ社員と話したりなど自分の仕事を黙々とこなしながらも時折フロア全体を見回していた。 そんな課長と一瞬視線が合って(マズい!)と思いながらもいきなり目を逸らすのは失礼かと思い思わずニコッと笑いかけてしまった。 そんな私の予想外の行動に課長は大して表情を崩すこと無く『仕事をしなさい』といっているようなジェスチャーをして視線を外した。 (大人だな、課長) 他の若い男性だったらこの見た目での笑みに舞い上がりそうなものなのになと高飛車なことを思ったのだった。
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