第二章 嫉妬深い彼

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もう何度も味わったこの喪失感と焦燥感。そんな痛い気持ちを抱きながらも毎日は過ぎて行き、そしてまた週末がやって来る。 「すずぅ~」 「えんちゃん、久しぶり」 金曜日の仕事終わり、私は約束していた友人の森川円加(もりかわまどか)との待ち合わせ場所に来ていた。今風の創作居酒屋の個室に女ふたり。気兼ねなく楽しめるという予感しかなかった。 「元気だった? 仕事、慣れた?」 「うん、まぁまぁかな。えんちゃんは?」 「わたしも順調っていえば順調かなぁ……。でも不規則な仕事だからさすっごい大変」 「出版社ってそんな感じだよね」 「その点すずの会社は9時5時キッチリしてるんでしょう? 羨ましいなぁ~」 「まぁ、その分就業中は残業にならないようにしっかりこなさないといけないんだけどね」 私と同じくこの春から新卒で出版社に勤め出した円加。お互い社会人になってからは初めての飲み会だった。 「で? どうなの?」 「ん? どうなのって……何が?」 「もうーこの雰囲気で訊くことっていったら男の話でしょう? オ・ト・コ」 「あぁ……男、ねぇ」 「初恋の彼とはどうなったの? ちゃんと付き合い始めたの?」 「……」 円加は私のことを何でも知っていた。私が太っていたことも読者モデルをしていたことも、そして初恋の彼とセフレだということも。 「ねぇ、訊かせて」 「……別れたよ」 「え」 「先週のことなんだけどね」 私が事の顛末を話すと円加は信じられないという言葉を連発した。
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