第一章 腐れ縁の彼

2/14

252人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
この春大学を卒業して食品メーカーに就職した私、香村寿々子(かむらすずこ)は一か月の研修期間を経て現在、配属された部署の先輩社員の三内さんに絡まれている最中だ。 指導係なのに仕事に関する話よりも他事の方が多いのには少し辟易するけれど気さくで威張っているという感じではない性格には好感が持てた。 「こぉら、お喋りは昼休憩にしなさい」 「痛っ!」 「!」 薄っぺらい紙を丸めたものでポカポカッと三内さん共々頭を叩かれた。 「課長、痛いですよ!」 「お喋りするから痛い目に遭うんです」 文句をいう三内さんに課長はもう一回ポカッと叩いた。 「あの、すみませんでした」 「あぁ、香村さんはとばっちりを喰らっただけですから一発で止めておきますね」 「あぁーズルい! 課長も若くて可愛い子を贔屓するんですね!」 「贔屓って……どう考えても指導係の君が無駄口の先導をしていたでしょう」 「えぇー、ちょっとした息抜きに話していただけじゃないですかー」 「いいから仕事してください」 そういって課長の斎木さんはデスクへと戻って行った。 「もう、ほんの少し話しただけじゃない。ねぇ、香村さん」 「……そうですね」 配属された販売促進課は幾つかの職種に分かれていて私は販売マーケティング部という処に籍を置いていた。 広いワンフロアにちょっとした仕切りで幾つかの部がデスクを並べていて、そのフロアの一番奥に座しているのが販売促進課、課長の斎木康隆(さいきやすたか)だった。 (そういえば課長っていくつなんだろう) 見た目が若いけれど課長という役職に就いているからにはそれなりに歳はいっているんじゃないかと思った。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

252人が本棚に入れています
本棚に追加