第二章 嫉妬深い彼

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焦りからもたつく指をなんとか動かし画面をタップした。 「も、もしもしっ」 『もしもし──寿々子?』 「あ、はい」 『よかった、番号変わっていなかった』 「……」 一年ぶりに訊いたその声は私を動揺させるには充分な破壊力を持ったものだった。 『ねぇ、今なにしてるの? 家? 会社?』 「外です。友だちと飲み会して帰るところで」 『へぇ、それは丁度よかった。今から会えない?』 「え」 『ダメ? もしかして警戒している?』 「そ、そんなことは」 『じゃあ決定。場所は──』 「……」 先週までの私だったら絶対に乗らなかった誘い。 (このタイミングで連絡が来るとか) もしかして私は神様に遊ばれているのかな、なんて思ってしまった。 指定された待ち合わせ場所は昔何度か連れてってもらったバーだった。 ドアを開け飛び込んでくるのは薄暗い店内に点在するシート席。店内の一番奥のカウンター内にいたマスターから「いらっしゃいませ」と挨拶が聞こえた。其方に視線を移すと目的の人が軽く手を振っていた。 「こ、こんばんは」 「こんばんは。久しぶりだね」 「……」 カウンター席の左端から二番目に座っていた彼。私はその隣に座った。 「突然呼び出して悪かったね」 「いえ……」 そんな他愛のない挨拶を交わしているとマスターが近寄って来て「ご注文は」と訊いて来た。
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