第二章 嫉妬深い彼

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「スプモーニ」 「え」 私が口を開くよりも先に彼が答えた。 「あれ、もしかして違った? 前はいつもこれだったけど」 「あ……いえ、それで」 「かしこまりました」 私と彼のやり取りをにこやかに見届けたマスターは静かに作業に入った。 「変わってないね。色んな意味で」 「そう、ですか?」 彼は手元にあったグラスを持ち上げひと口あおった。 「もしかして岸岡さんはラフロイグですか?」 「ご名答」 「ふふっ、岸岡さんだって変わっていないじゃないですか」 「変わっていないって、俺はその日の気分で変えているよ」 「でもウイスキーベースなんでしょう?」 「まぁね」 「やっぱり変わっていない」 クスクス笑っている間に私の前に鮮やかな茜色のタンブラーが置かれた。 「マスター、お代わり」 「かしこまりました」 飲み干したロックグラスをマスターに差し出し、彼、岸岡淳也(きしおかじゅんや)はズイッと私に近寄った。 「ねぇ、彼とは順調?」 「!」 近くで囁かれる声が脳にダイレクトに響いた。 「あぁ、彼──じゃなかったっけ? 友だち? 初恋の君」 「……」 「あの後どうなったのかなとふと気になってさ。思い立ったが吉日ってことで連絡してしまった」 「……そう、ですか」 それは虫の知らせとかそういった類のものなのだろうか。このタイミングで約一年ぶりに再会した彼との繋がりはまだ切れてはいなかったのか? とつい考えてしまった。
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