第二章 嫉妬深い彼

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「ねぇ、香村さん最近綺麗になったね」 「え」 始業時間になってから数分、隣の席の三内さんが私の顔をまじまじと見ながら呟く。 「いや、前から綺麗なんだけどさ、ここ数か月で女っぷり上げたんじゃない?」 「そうですか? 特に意識したことはないんですけど」 「いい恋してるの?」 「……」 (また始まった) 三内さんのどうでもいいお喋り。そして何か動きがあったことに関しては根掘り葉掘り訊きたがるという根っからのゴシップ大好き性格。 「ねぇねぇ、どんな人と付き合ってるの? 香村さんの彼氏ならさぞやレベルの高い男なんだろうね」 「三内さん、あんまりお喋りしているとまた斎木課長に叩かれますよ」 私的伝家の宝刀『斎木課長の紙束棒』を口に出してみた。しかし── 「ふふ~ん、心配無用。今日から課長出張に行ってるからいないのよ」 「え、そうなんですか?」 三内さんからいわれて課長の席を見ると確かに不在だった。 「北陸に一泊二日だって。いいよねぇ~蟹が食べ放題!」 「蟹を食べに行く訳じゃないですよね? 打ち合わせですよね、一番の目的は」 「でも仕事が終われば蟹、食べるでしょう?」 「……まぁ、食べるかも知れませんね」 「だよね。いいなぁー蟹」 話が逸れたことで心の中でホッと安堵したのも束の間で「蟹食べに温泉旅行行きたい! ねぇ、香村さんは彼氏と温泉、行ったことある?」なんてまた話が戻って来てしまいどうしたものかと困りながら苦笑いするしかなかった。
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