第二章 嫉妬深い彼

15/35

260人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
いつものように終業時間のチャイムが鳴る中、席を立った三内さんが机にへばりついている私に声を掛けた。 「香村さん、帰らないの?」 「頼まれていた統計表の作成がまだで……明日の朝一の会議で必要といわれているので少し残ってやって行きます」 「そうなの? ひとりで平気?」 「はい。後は数字を打ち込んで行くだけですから」 「そう、じゃあお先にね」 「お疲れ様でした」 三内さんを見送ってから再びパソコンに向き合った。その後も何人かに声を掛けられながらも集中して打ち込みを続けた。 (細かい数字が続くなぁ……) 商店の屋号と其処に合わせて入れるべき数字が細かくて単純作業なのに中々気が抜けない内容だった。 やがて静かな室内にカタカタとキーボードの音が大きく響いていることに気が付いた。いつの間にかフロアには私ひとりだけになっていた。 (こんなの初めてだ) 基本残業がない会社。残業をする場合は特別な理由がない限りサービス残業になる。 (……はぁ) いつもは雑多な雰囲気で騒がしいフロアが今は怖いくらいに静まり返っている。少し画面から目を離し目頭を押さえる。そして真っ直ぐ見つめる先には昨日から不在の課長の席があった。 (明日になれば課長、出勤するんだよね) そんなことを思うと何となく笑いが込み上がって来た。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

260人が本棚に入れています
本棚に追加