第二章 嫉妬深い彼

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(課長のあのポカッと頭を叩くの、なんだか癖になっているんだよね) 入社してから半年が経とうとしている。その間、三内さんと隣り合わせの席になってから課長に束ねた紙で頭を軽く叩かれることが何度かあった。 その度に三内さんは文句をいうけれど私はあのポカッで気合いが入るような気がしていた。 「ふふっ、不思議な人だなぁ」 「誰が不思議な人だって?」 「!」 不意に口から出た独り言に応対する声を訊きビクッと体が撓った。声が聞こえた方へと視線を這わせると其処には今まさに頭に思い浮かべていた斎木課長が立っていた。 「か、課長?!」 「香村さん、こんな時間まで何やっているの」 スーツ姿の課長の手には旅行鞄と紙袋が提げられていた。 「私は残業を……明日朝一の会議で必要な書類を作成していて」 「あぁ、例の統計表か。細かいから時間がかかっている?」 「はい。夕方近くになって数字を一段ずつ間違えて入力していたことに気がついて……」 「ははっ、そうなんだ。よく間違いに気がついたね、偉い偉い」 「!」 鞄や紙袋をデスクに置いて空いた課長の掌が私の頭にポンッと置かれた。その突然の行為にドキンと胸が高鳴った。 (わぁ~~~この歳になってナデナデされちゃった!) 親が子どもにするようないい子いい子を年甲斐もなく実践されドキドキしながらもカァッと顔が赤くなってしまう。
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