第二章 嫉妬深い彼

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課長とラーメン屋で晩ご飯を食べた翌日。 「香村さん、はい」 三内さんが机の上に小さな包みをひとつ置いた。 「これは?」 「課長からの出張のお土産。羽二重餅だって」 「あ、ありがとうございます」 視線を上げると課長が箱を手に彼方此方の部署を回っていた。 (お土産って……お菓子?) 「しかし課長も律儀よね。いつも出張に行く度にその場所の銘菓を人数分買って来るのよ、自腹で」 「そうなんですか」 「まぁ、当たり外れがあるのがアレだけど……ん、今回は当たりだ」 「……」 三内さんが羽二重餅を頬張りながら色々話していた。 (あれ? お菓子だけ?) ふと昨日のことを思い出す。課長がお土産といってくれた越前和紙の名刺入れ。 (てっきり名刺入れがみんなのお土産だと思っていたのに……) でもよくよく考えればみんなに名刺入れのお土産は金額の負担が大きい。少し考えれば分かりそうなことだったのに課長ならそれをするだろうと勝手に思い込んでしまった私が浅はかだった。 でもだとしたら── 『先に渡したってことは内緒にしておいてね。特に三内さんが知ったらからかわれるネタになるかも知れないからね』 (あれってどういう意味だったんだろう?) 内緒といわれたからには内緒にするべきなのだろうけれど。 (ひょっとして……課長……) なんとなく甘酸っぱい気持ちが込み上げて来る。まさか社内でこんな気持ちを味わうことになるとは思わなかったから少し胸が高鳴ってしまった。
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