第二章 嫉妬深い彼

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(今日の岸岡さん、絶対におかしい) この時には数時間前にチラッと思った疑問が確信に変わったのを悟った。 「岸岡さん……これって……お、お仕置き、なんですか?」 「お仕置き? なんで」 「だって……だって急にこんな……っ! こんなこと、今まで……」 「……」 「私、本当にか、課長とは……なんでもありませんっ」 「なんで今、課長が出て来るの」 「だ、だって……っ──あぁぁっ!」 『課長』という単語を出した瞬間、中に捻じ込まれている玩具の威力が強くなった。 「今、此処で関係のない名前を出さないでくれよ。気分が削がれる」 「っふぅ……ぅうっ、んぁ、あ、あぁぁぁっ!」 激しいモーター音が響く中、まともに言葉が発せなくなった。 (怒ってる……岸岡さん、怒っているんだわ) 無表情ながら笑みを湛えている岸岡さんの顔が怖かった。 課長とは何でもないと言っている私の言葉が届いていないように思えたことが今まで持ち合わせていた甘い感情に小さな穴を開けていった気がした。 その小さな穴から緩やかに抜けて行く好きという気持ちの代わりに私の中を埋めるのは虚無感だった。 (岸岡さんってこんなに嫉妬深いんだ……) それは愛されているが故に起こる感情なのだろうと思うけれど、私の言葉を信じてくれない、通じないということが過去のトラウマと重なってしまった。
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