第二章 嫉妬深い彼

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岸岡さんからの手荒い行為を散々受け、心と体がすっかり疲弊しきったところでようやく解放された。 「無理させたね、ごめんよ」 「……」 「俺、自分でもこんなに嫉妬深いとは思わなかった」 「……」 「寿々子がただの上司だっていってるのにどうしてもそれを素直に受け入れられなくて……俺以外の男と楽しく話しているのを目の当たりにするとどうしても嫌な気持ちになって怒りが抑えられなくて……」 「……」 岸岡さんは私にした仕打ちを一生懸命謝って、そして素直に『嫉妬した』と言った。 一瞬の負の感情で我を忘れてしまった原因の大元には私のことが好き過ぎてという理由があることは分かっている。分かっているけれどそれを嬉しいとは思えなかった。 だって私は……私を好き過ぎてほんの些細なことでも激昂に駆られ、酷く甚振る人をよく知っていたから。 彼はありのままの私を好きだといってくれた人だった。 そのままの君でいいんだ、そのままの君が好きなんだと私にとっては奇跡のような告白をしてくれた人だった。だから私は彼のことが本当に好きかどうか分からないまま告白を受け入れてしまった。 彼は告白の言葉通りありのままの私を愛してくれた。 交際は順調だった。彼によって私は女として生まれたことの悦びを存分に与えられた。 幸せだった。とても幸せだったのに順調だった付き合いが徐々に瓦解して行くのは案外早かった。
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