第二章 嫉妬深い彼

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(だからこそもう絶対に同じ轍は踏まない!) 「──今、なんていった?」 「……」 「寿々子」 「……ごめんなさい」 「……」 初めてのお泊まりは私から彼氏を奪う悲しい結果を迎えた。 何故あそこで課長に会ってしまったのだろう。何故課長と立ち話をしている姿を見られたのだろう。あのタイミングで来たり喋ったり見られたりしなかったらこんなことにはならなかっただろうか。 ──ううん、それは違う。遅かれ早かれこういう事態にはなっていたのだろうと思う。 交際期間は決して長くはなかったけれど岸岡さんの本性にこのままずっと気が付かないでもっと深く繋がってしまっていたらと考えると怖くなった。 「……私は岸岡さんのことが好き、でした」 「過去形なのかい」 「……好き……です」 「言い直さなくてもいいよ」 「……岸岡さんが些細なことでも嫉妬するというのはそれだけ私のことを好きでいてくれるから、だと思うんですけど」 「そうだよ、俺は君のことを本当に愛している。愛しているからこそ俺以外の男に笑いかけて話なんてして欲しくない」 「でも、岸岡さん以外の男性と全く話さないで生活することは難しいです」 「それは分かっている。ただ俺の見える処では止めて欲しいというだけで」 「……」 「本音をいえばすぐにでも仕事を辞めさせて此処に閉じ込めておきたいとさえ思っている」 「……」 「それをギリギリのところで抑えているんだ。だけど……その抑制がちょっとしたことで壊れてしまって……今日みたいに君に酷い仕打ちを……」 「……」 「だけどもう絶対にしない! 男と喋るなともいわない! だから別れるなんていわないでくれ!」 「……」 「たった一度のことじゃないか。これからもう絶対にしないから! だから許してくれ、寿々子っ」 「……」 岸岡さんは座っている私に縋り付いて来た。
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