第二章 嫉妬深い彼

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(あぁ……またこういう流れに……) 不意に蘇る過去の記憶。私は岸岡さんみたいな人をとても良く知っている。 (こういう人はみんな同じだ) 過去から学んだ記憶が必死に私に取り繕っている岸岡さんの行動を酷く滑稽に映し出してしまっていたのだった。 私は怖かった。過去に受けた酷い恋愛経験からある事に関してトラウマを抱えるようになった。 強い束縛からの拘束、暴力。私の気持ちを無視して甚振り支配しようとする事に対して酷い恐怖心が芽生えてしまうのだ。 そして一度その恐怖心を抱いてしまった相手とはもう──…… 「えぇっ! いつの間にそんな話に」 泣きながら電話して来た私に驚きつつも温かく自宅に招いてくれた円加は先刻から驚きの声しか発しなかった。 岸岡さんと別れたその日の内に円加に泣きの電話を入れて、そして仕事を終えた円加の家に転がり込んでいた。 「あの日、わたしと飲みに行った夜に再会したタイミングといい告白されたシチュエーションといい、話を訊く限りいい男のようなんだけど……」 「実際いい男だよ、岸岡さんは」 「なのに別れたの?」 「……うん」 「たった一度嫉妬されて……えっちなお仕置きされちゃったから?」 「……うん」 「そんな……それはすずのことを本当に好きだから──」 「……先輩のこと……思い出しちゃって……」 「──え」 円加は私の『先輩』という言葉を訊いて押し黙った。
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