第一章 腐れ縁の彼

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金曜日の22時過ぎの電車内はさほど混んでおらず、座席に座ったマスク姿の私はうつらうつらとしていた。 不意にバッグの中に入れていた携帯のマナーモードのバイブ音が聞こえた。手早く携帯を取り出して確認してみればよく知った男からのメールだった。 【今から家に行ってもいいか?】 浅くため息をひとつついて素早く返信した。 自宅の最寄り駅に着き足早に夜道を駆けて行った。普通に歩いたら10分かかるところを3分も早く着いた。するとマンションのエントランスにその姿を見つける。 「……早かったね」 「おぅ。メール、此処で打ったんだ」 「え」 「インターホン鳴らしても出なかったからさ、メールした」 「相変わらずだね」 「悪ぃ」 セキュリティーを解除してエレベーター前まで進んだ。その後をついて彼もやって来る。 「飲んで来たんか?」 「うん、部署の先輩と」 「それって男?」 「違う」 「ふぅん。寂しいねぇ~金曜の夜だっていうのに」 「余計なお世話。あんただって私の処に来ている時点で寂しいのは同じでしょう」 「俺は違うよ。ここ数日ずっと残業でさぁーまともに家に帰ってないんだよ」 「じゃあ今すぐ帰りなさいよ」 「えぇーダメ。もういちいち電車乗ってとか……気力が持たない」 「だからってうちをホテルか何かと勘違いしないで欲しい」 「そんなつれないこというなよ~ジュジュ」 「その名前で呼ばないで」 「おぉっと、地雷踏んだ? ごめんごめん」 「……」 軽口を叩きながら6階の自宅に着き玄関を開け中に入った途端いきなり押し倒された。
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