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第三章 優しい上司
しばらくは何事もない日々が続いた。幸いな事に別れた岸岡さんからは何の連絡もなく私の気持ちは徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
そんなある日──
「香村さん、ちょっと」
「はい」
呼ばれて課長の元に向かった。
「このデータの調査表をまとめたのは香村さんだよね」
「はい、そうですが」
机上に置かれた書類を見てそれは午前中に仕上げて課長の判をもらうために提出したものだった。
「あのね、数字、ちゃんと確認した?」
「え」
「カンマの位置がずれているよ──全部」
トントンと課長の指が指示した箇所の数字が全てありえない桁で区切られていた。
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