第三章 優しい上司

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「え……えっ、えぇぇぇぇっ!」 驚き過ぎて思わず大きな声が出てしまった。それに反応してかフロアの社員の何人かが私に視線を注ぐ。だけどそれを恥ずかしいと思う間もなく微かに震える手で書類を手にした。 「す、すみませんでした! 直ちに修正します」 「はい、お願いします」 課長は多くを語らずそれだけをいって自分のPCに視線を戻した。よろよろと自分のデスクに戻りながら私は項垂れた。 (嘘、嘘嘘っ! カンマ打つ位置を間違えるなんて……そんなの小学生だってしないのに!) あまりにも酷いミスに恥ずかし過ぎてどうにかなってしまいそうだった。まさに穴があったら入りたい状態とはこのことだと思った。 「あははっ、香村さんやっちゃったわね」 「う゛~~~う゛ぅ~~~もう蔑んでください、こんなミスするなんて~~~」 「まぁまぁ。上に提出する前に気がついてよかったじゃない。他の人だったらろくに確認しないでポンッと判子押して提出しちゃっていたよ」 「そ、そんなことはないと思いますけど……でも……」 これは恥ずかし過ぎだ。単純かつ性質(たち)の悪い凡ミス。 (なんで気が付かなかったんだろう) やっとまともになって来たと思っていた精神状態が実はそんなにまともじゃなかったのかということなのだろうか。
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