第三章 優しい上司

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ため息をつきながら制服から私服に着替える。誰もいない更衣室は久しぶりだった。 (そういえば前の時も……) 課長が出張から帰って来た時、ひとり残業していた時のことを思い出した。 (あの時はラーメンを奢ってもらったんだっけ) そんなに昔のことじゃないとはいえやけに鮮明にあの時の記憶が蘇った。 (ダメダメ…! 今、課長の優しさにドップリ浸かると……) 絶対涙腺が崩壊すると思った。心が弱っている時に優しくされると正常な判断が出来なくてあとあと厄介なことになると分かり過ぎているだけにそこら辺は慎重になっているつもりだった。 「……」 モソモソと着替えを済ませ静かに更衣室を出てロビーに向かって歩いた。通りすがりに部署フロアを覗いたけれど既に非常灯だけがぼんやりと灯る真っ暗な空間が広がっていた。 (課長……もう帰っちゃったかな) フロアを出る時課長は書類を届けてから帰るといっていた。書類を置くだけならそう時間はかからないし、私がモタモタと着替えている間に帰ってしまうことは充分考えられた。 (って私、何を期待しているの) 頭の何処かで課長を探していることに気が付く。だけど別に課長には何の感情も持っていない。
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