第三章 優しい上司

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──いや、持っていないというのは嘘、か (優しい人という感情は持っている) 年の功か大人の余裕というか、同世代には感じない安心感を与えてもらっている様な気がしてそれが心地いいと思ってしまっている。今の私にはその感情だけでも充分危ういものだった。何か誤った判断をしてしまいそうでこれ以上深入りするのは止めようと思う。 だけどその反面──…… 「香村さん」 「!」 会社を出たすぐの処に課長が立っていた。 「やっぱりまだ中にいたんだね」 「か、課長、どうして」 「もう暗いからね。せめて駅までは送って行こうと思って」 「……」 「帰る方向は同じだから構わないでしょう?」 「……」 「あれ? 香村さん?」 「~~~んで」 「え」 「なんで……課長……そんなに優し……っ」 気が付けばポロポロと涙が出ていた。数分前に危惧していた通り見事に涙腺が崩壊したのだ。 別に大したことをいわれた訳じゃない。課長も電車通勤なのだから駅まで一緒に行くなんていうのはあってもいいことだし、暗くなっているから送って行くという言葉もよくあるものだ。 (なのになんで……) 「……何かあった?」 「!」 課長の言葉にドキッと胸が高鳴った。
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