第三章 優しい上司

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「昨日直してもらった調査表、今朝部長の判もついてもらえて次回の重役会議の参考資料として使われることになったよ」 「あ……そ、そうですか」 「うん、ご苦労様でした」 「……」 「? 香村さん、どうかした?」 「あ……あの……」 面と向かって喋ってもやっぱり課長があまりにもいつも通り過ぎてかえって私はモヤモヤしてしまう。 昨夜のことがどうしても思い出せなくて、課長に対して何か迷惑をかけなかったのかどうか分からな過ぎて嫌なドキドキ感が抜けなかった。 「僕に話があるの?」 「あ、は、はい」 「それは業務に関すること?」 「い、いえ、違います」 「そう。じゃあどうしよう……僕、これから打ち合わせで席を外すんだけど」 「あの、終業後、お時間があれば……その、お手数かけませんから少しだけお時間を……」 「終業後ね、分かりました。じゃあ今日は残業しないようにお互い頑張りましょう」 「!」 私に向けてにっこりと微笑まれた課長の顔に嫌なドキドキ感から一気に甘いドキドキ感に変わったことに驚いた。 (や……な、何、このドキドキはっ) 今までのような安らぎと安心感をもらっていた笑顔とは違ったムズムズする様な笑顔に私の心はざわついた。 (なんだか課長が……課長じゃないみたい!) それは今まで気づいていそうでいなかったような高揚感で、ドキドキと共に戸惑いを感じたのだった。
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