第三章 優しい上司

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──もしかして私、課長のことを…… (いや、まさか。だって課長、うんと歳上だし) 『だよね。でもね、あの見た目に騙されちゃダメだよ』 『なんか年相応におっさんくさいんだよねぇーやる事なす事』 『所詮見た目だけだから、課長は』 いつだったか三内さんと飲んだ時に語っていた課長に関すること。見た目が若くても中身は年相応──というのはなんとなく分かる気がする。私が知っている男性にはない大人な振る舞いというか性格というか…… (器が大きいって感じ?) でもそんな課長がバリバリの出世コースを歩んでいる癖に何故36歳にもなって独身なのかという事実は社内でも謎のひとつになっていた。 優しくて大人で仕事が出来る──なのに独身。それは課長が結婚に向かない何かがあるのではないかと。会社で見せるものとは別に、何か裏のある性格をしているのではないかという危険な噂も蔓延っていた。 (そんな噂を耳にしてその全てを信じている訳じゃないけれど……) 私の中では無意識に課長は恋の相手としては除外されていたような気がした。 (それなのに……私……) 岸岡さんと別れてから心が弱っている隙をついてこういう感情に溺れてしまうなんて我ながら恥ずかしいと思う。 (優しくしてくれる男なら誰でもいいのかって話)
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