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課長の部屋に通された瞬間、すぐに唇を求められた。誘われるように押し倒された寝室の大きなベッドの上で私と課長はお互いの唇を食んだ。
軽いリップ音はすぐに濃厚ないやらしい水音に変わった。私の中をクチュクチュと蹂躙する課長の激しい舌遣いに逆上せそうだった。
「ん……香村さ──」
「っ、寿々子、と。寿々子と……呼んでください」
「……寿々子」
「!」
課長の声で名前を呼ばれた瞬間、全身に電流が走ったような気がした。
「じゃあ僕のことも──あ、名前、知っている?」
「……知っています……康隆、さん」
課長も私と同じことを感じたのか、一瞬その動きが固まった。
「康隆さん…?」
「はぁ……ダメだ、信じられない」
「え」
急に熱が冷めたような真顔になった彼は私から少し距離をとった。
「……本当に僕なんかでいいのかな」
「な、なんですか、突然」
「いや……あまりにも幸せ過ぎていざこの幸せが夢で儚く消え失せてしまったら僕はどうなってしまうのかと怖くなって……」
「……」
しばらく沈黙が続いた。性急に求め合った感情が徐々に萎えて行く気がして私は戸惑った。
「あの……康隆さ──」
「実は僕には大っぴらに話せない秘密──というか、今まで真剣に恋愛出来なかった理由というのがあるんだ」
「……え」
突然何をいい出したか解らず、一瞬呆けてしまった。
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