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この数日間に私の身に起きた出来事は奇跡としかいいようのないことばかりだった。
「おはよぉ~」
「あ、おはようございます」
「……んん?」
「何ですか? 三内さん」
出勤して来た三内さんが私の顔をマジマジと見ている。
「香村さんって気持ちのコンディションがそのまま顔のコンディションに繋がっているのね」
「え……それはどういう」
「今、すっごくいい恋愛しているんじゃない?」
「!」
「あ、図星~。やっぱりねぇ、少し前とは全然違う血色しているもん」
「……」
「メイクが変わったって訳じゃないし、これは中身から変わったって感じの変わり方だもん」
(本当に鋭い、三内さんって)
ズバズバと言い当てられて一瞬言葉を失う。
「ねぇねぇ、どんな男と付き合っているの? 香村さんが付き合う男ってだけで相当期待しちゃうんだけど」
「えっ、あ、あのですね……」
どうやって話の矛先を変えようかと思案しているといつもの軽い痛みが頭に降り注いだ。
「痛っ!」
「はいはい、お喋りはそこまで。始業時間ですよ」
「課長! 今日の紙の束、ちょっと多いんじゃないですか?! いつもより痛いですよ」
「そう? いやいや、いつものほんの5倍ってだけです」
「充分痛いですって、それ!」
「……」
よく知った痛みが私をとても幸せな気分にしてくれる。
「はい、今日も残業しないようにしっかり働いてくださいね、三内さん、香村さん」
「いつもしっかり働いていますって。ねぇ、香村さん」
「はい」
三内さんの問いかけに相槌を打ちながら康隆さんに視線を向けると、流石にその顔はいつも会社で見る課長モードの表情をしていた。だけど不意にその表情に今までには感じなかった愛おしさを含んだものが見えるとキュンと胸が高鳴った。
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