第四章 本当の恋人

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康隆さんと付き合い始めてから一か月。平日は会社で上司と部下という形で真面目に仕事をする関係で、休日はお互いの家を行き来したり時々デートしたりしてその愛情を深めていった。 社内恋愛が禁止じゃない会社だったけれど中々大ぴらに交際していることをいうタイミングがつかめず未だに内緒のお付き合いをしているという具合だった。 「香村さん」 「はい」 課長に呼ばれてデスクへと向かう。 「この草案を清書してくれるかな」 「分かりました。いつまでに仕上げればいいですか」 「明日の午前中の会議に使うから今日の帰りまでに出来ればいいかな」 「はい」 クリップに挟まれた三枚綴りの草案をパラパラとめくっていると小さな付箋が貼ってあることに気が付く。 【今夜時間ある? よかったらご飯食べに行かない?】 (こ、これは…!) 社内恋愛をしていたら一度は体験したかった書類にお誘いメモだ。まさか真面目な康隆さんがこういうことをするとは思わなかった私はドキドキしながらチラッと彼を見た。すると一瞬目を細めてアイコンタクトをしてくれた。 (もう、反則! 素敵過ぎて仕事に支障が出ます!) 幸せの絶頂にいた私はあまりにも浮かれ過ぎていて、これから自分の身に恐ろしいことが訪れるなんて微塵も感じていなかったのだった。
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