消化試合

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消化試合

 弱小チームで顧問は名ばかり。 部室は単なる俺たちの居場所だし、活動なんて影もない。  強豪チームだったあの頃の輝かしい記念写真は壁にかけられたまま埃を被ってる。  俺がレギュラーだった一年生の頃、試合に出れない先輩が涙を飲んだのをいつもこの部室の陰から見ていた。  先輩達が引退して、顧問は他校に異動になり、今年入ってくると噂だった全国レベルの新一年生はその顧問の元に流れていった。  アリーナにバスケットボールの弾む音が響いていたあの頃が懐かしい。  俺は突然、俺の居場所を失った。  一年生で唯一レギュラーだった俺は、先輩達が引退したあと、取り残されて置いていかれた雛鳥みたいに巣の中の仲間を探した。  レギュラーになれなかった同級生達が嘲笑う。  こんななのに、まだお前やる気あんの?って。  やる気の無い部室にはたばこの煙がもくもくと漂うばかりだった。それから、知らないうちにいつの間にかそいつらもやめてた。残された俺たちは、今日もこうしてやる気ない埃っぽい空気の中にいる。  そんなバスケ部に入ってくるやつなんかいないと思ってたのに。  なのにあいつは入ってきた。  バスケなんかやったこともないくせに。  経験者にまじって1人。あいつはドリブルすらまともに出来ない。  そんなあいつをいつも退屈そうに竹田が弄る。 「あいつ、何がよくて来るんだろうな。」 「さあね…」  新一年生は男子四人。あいつ以外みんな一応、経験者だ。  それと俺たちやる気の無い新三年生の三人。俺と竹田と名ばかりの部長の宮野と。ずっとレギュラーを目指してた二年生達は顧問が異動したタイミングでみんな辞めていった。  色白でヒョロヒョロしたバスケなんかやったこと無さそうな銀縁メガネの化学の先生がなんでうちの顧問になったのかわからない。  時々体育館に様子を見に来ては、気をつけて帰れよ、と言って職員室に帰っていく。サブのもう一人の顧問なんて顔すら出さない。  部室の鍵を返しに行くとエアコンのよく効いた職員室でコーヒーを飲みながら優雅にマドレーヌを食べてた。  華々しく輝いていたあの頃の景色は跡形もなく散り、嵐が去ったあとみたいなひっそりとした部室で、残された俺たちは最後の消化試合みたいにただ時間を潰してた。
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