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【1】
僕はまるで敵城へと忍び込んだ忍者のような心地だった。
少しでも取り乱せば、僕は命を失うことになる――。
そのぐらいの緊張感を持ち合わせながら、僕は町から遠く離れたショッピングモールの中にある雑貨屋さんへと足を踏み入れた。
可愛いらしい雑貨や化粧品が所狭しと並べられ、こんな名前もわからないフリフリの付いた洋服まで置いてあるお店になんて、僕は生まれてこのかた入ったことが無い。
ましてや、ここは僕みたいな男子高校生が1人で来て良いような場所ではない気がする。
そういう直感がある。
店内を見渡せば商品を手に取り楽しそうにしている女性客でここは溢れている。年齢層はほとんどが僕と一緒ぐらいの若者だろうか。
みんながみんな流行りのファッションとメイクでばっちりと自分を着飾り、まるで雑誌で目にするモデルのような女の子ばかりだ。
そう思ってしまうのは、僕の田舎者フィルターを通しているせいなのだろうか……。とにかく、そんな彼女たちをおずおずと見ていた僕はふと手近なところに目をやった。
童話に出て来そうなキャッチ―なフォルムをした小物たちとアクセサリー。それが、金色のチェーンやリボンなどで綺麗に装飾された棚にずらりと並んでいる。
薄いピンク色のLEDライトがそれらを可愛らしく照らし、僕の心臓は一瞬躍るような音を立てた。
高ぶった気持ちを落ち着けるように1つ深呼吸をして、僕は変装用に被っていた帽子とマスクを深くつけ直す。
僕としては、出来れば知り合いにこんな所を見られたくはない。それが高校のクラスメイトであればなおさらだ。
そうだというのに、僕って奴はいったい何をしているんだ……。
それに対して明確な答えがあるわけじゃないけれど、1つだけ言い訳をさせてもらうとしたら、それは――単純に“僕の内なる衝動が理性を上回ってしまった”。
その結果がこの状況というわけだ。
恐ろしくも、それが現実だった。
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