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週末になるとそいつの家に行っては、絵を描き続けた。作業が長時間になった時には、昼飯を作ってくれて……それは良いんだが、三人分だったのは正直キツかった。
一向に減ることのない皿の中身といい、「美味しい?」とか「もう少しで完成だから」って、その染みに向かって言ってるのが、苦痛で仕方なかったな。場違いというか……なんていうか。それに傍にいられると監視されてるみたいで、何だかやりずらさもあったな。
でも一度だけ、一人で作業したことがあった。その時、その染みが浮き出てくるような錯覚に陥って……それに声もした。
何て言ってたか分からない。だけど確かにそこから女の声がしたんだ。
逃げださなかったのかって? そりゃ逃げ出したかったさ。
だけどそこは堪えて、とにかく筆を動かした。一刻も早く終わらせたかったからな。それにすぐに、帰ってきたから。それだけは救いだったな。
一ヶ月ぐらいで絵が完成した。黒染みとは正反対の白のベールにドレス。希望通りに純白のドレスには薔薇の花を象ったレースをつけてある。胸元から顔に掛けてだけ異質な黒い影であるにも関わらず、何だか本当に綺麗な花嫁がいるみたいだった。
出来映えはまさに完璧。最初こそはどうなるか不安だっただけに、俺は心底ホッとした。
そいつも満足そうで、初めて血色が良い顔で何度も「ありがとう」って言っていた。
帰り際に駅まで送ると言われて、俺は断らなかった。何となくだけど、もう二度と会わないって感じていたからかもしれない。
俺はそこでやっと疑問に感じていた事を聞いていた。
どうして、あの染みに執着しているのかと。
そいつは信じて貰えないかもしれないけれどって、苦笑いした。
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