黒影

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 そこから少し面倒な事になって……まぁ、そんなことはどうでも良いだろ。また取り調べのルポでも書くときに話すよ。  とにかくアイツは死んだ。しかも一人でな。  そこで親友は言葉を切った。二杯目のビールを飲み干して、はぁーと深い息を吐いた。 「凄い経験をしたんだな……」  僕はボイスレコーダーを切ろうと手を伸ばす。そこで親友は僕の腕を掴んだ。 「まだ終わりじゃない」  いつにない怖い顔の親友に、僕は伸ばした手を引く。 「あの女が俺の部屋に現れた」 「現れたって?」  僕は愕然とした。にわかには信じがたい話だったからだ。  新たに頼んだロックの焼酎を親友が口にする。素面では話せないのも今なら納得がいく。 「……俺の部屋の壁に急に黒い染みが出来たんだ。しかも徐々に大きくなって……消しても消してもまた浮き上がる」  前髪を掴み、親友が憔悴した声で「消えないんだ」と繰り返す。  もしかして、親友に惚れて移動してきたのでは――そんな嫌な疑念が頭を過るも、これ以上聞く勇気はなかった。  取材のお礼に僕が会計を済ませ、駅で別れる。改札を抜けていく親友の後ろ姿を見送りながら、僕の中で一抹に不安が過る。  彼は逃げ切れるだろうか。  平穏無事な生活を送れることを願いながら僕も帰路につく。  帰宅するなり家中の壁を見て回ったのは、言うまでもないことだろう。
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