わがまま令嬢はある日突然不毛な恋に落ちる。

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「……様、お嬢様っ!」  切羽詰まった声に、ハッと意識が覚醒する。  目の前に、アルトがいた。  目が合うと、たちまちアルトはホッとしたように息を吐く。  放心状態のまま、周囲を見る。見知らぬ一室。あちこち身体が痛くて、ハッとする。  そうだ、あたしは誘拐されていたのだった。  でもなんで、ここにアルトがいるのだろう。  誘拐犯がどうにかして知らせてくれたのかと思ったが、そんな危険なことはしないだろう。  すると、あたしの疑問を察したかのようにアルトが言う。 「お嬢様が部屋にいらっしゃらなかったので、GPSで位置を調べさせて頂いたんです」 「ジー……は? なにそれ?」 「あぁ、えっと……お嬢様が今どこにいるのかを教えてくれる魔法のようなアイテムです」  聞き慣れない言葉に首を傾げるあたしに、アルトは簡潔に説明した。 「なにそれ。おじい様が新しく開発したアイテム?」 「いえ、開発したのは私です」 「初めて聞いたけど」 「お嬢様専用に使うつもりでしたので、会長と話し合い、世間には公にしていないんです」 「……あんた、前職は魔術師かなんかだったの?」 「まさか。異能もレベルもゼロのおじさんですよ」  にこりと笑うアルトからは、胡散臭さが滲み出ていた。 「……でもあたし、そんなアイテム身につけた覚えないわよ?」 「靴の裏に付けておいたんですよ」 「えっ!?」  思わず靴を脱いでひっくり返す。……が、なにもない。  睨むようにアルトを見上げる。 「うそじゃん」 「中に埋め込んであるのです。だれにもバレないように」 「……あんた、ホントは詐欺師でしょ?」 「まさか」  アルトはにこりと笑ってから、あたしの背後に回った。 「それより、なにもされてませんか?」 「……う、うん」  まぁ、髪は切られたけど。  手際よく縄を解くアルトを、じっと見つめる。  初めてアルトの顔をじっくり見たような気がした。  なんかちょっとかっこよく見えてしまうのは、気のせいだろうか。  ……なんだかよく分からないけど、胸の辺りがもやもやする。  ふと目が合い、慌てて目を逸らす。 「……あ、あたしを捕まえた奴らは?」 「捕まえましたよ。ディスワード家お抱えの隠密部隊が」 「隠密……? なにそれ。うちってそんなのいたの?」 「私が提言して作ってもらいました。会長もお嬢様のためならとすぐに了承してくれて、騎士団に負けないくらいの精鋭がそろっています。まぁ、隠密部隊なので、あまり派手には動かせませんが」 「……いやいやいや。あのさ、さっきから黙って聞いてれば、あんためちゃくちゃキャラ崩壊してるんだけど?」 「キャラ崩壊……ですか?」  困惑気味の眼差しを向けてくるアルトに、あたしは頷く。 「今までのポンコツ執事のイメージとかけ離れ過ぎて、脳がバグるって言ってんの」 「ポン……え、私、ポンコツだと思われてたんですか」  そりゃそうだろ、とあたしは呆れる。  しかしアルトはショックを受けたようで、ずぅんと灰色のオーラを出していた。 「……なんなのよ……」  それにしても、この男。  じーなんちゃらだの隠密だのわけのわからないことばかり言って。胡散臭さMAXなんだが。 「……で、あんた、結局何者なわけ?」 「お嬢様の有能な執事兼ボディーガードです」  ポンコツ、と言われたことを地味に気にしていたのか、アルトは『有能』という言葉を役職の前に付けやがった。  うざ。
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