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ヴィンス
後もパッケージに載っているキャラクターや顔のいいモブに口説かれまくって疲弊した。自室に入るなり、ベッドに横たわる。
「体調が悪いのか? それとも足が痛むのか?」
ヴィンスが心配そうに僕の様子を伺う。ヴィンスは他のキャラクターに口説かれている時は全く姿を見なかった。やはりノアと絶対に恋愛関係にならないキャラクターだからだろうか。
「色々あって疲れただけ。足も痛くないよ」
口説かれて逃げてを繰り返しても足は痛くない。カイルの巻いてくれたテーピングのおかげだ。
「痛くなったら我慢せずに言いなよ」
「ありがとう」
礼を言うとヴィンスは自分の机にテキストとノートを広げた。課題に取り組むヴィンスの真剣な横顔を見つめる。やっぱりヴィンスだけは地味だし普通なんだよな。顔が良かったら、僕を口説かない貴重なイケメン枠としてずっと見ていられるのに。
少し落ち着いたから、僕も自分の机に着く。テキストを取り出し机に置くと、机の上にある鏡が視界に入った。
ノアが映っている。誰が見ても美少年だというだろう。僕のことを口説かない美形はノアしかいない! 僕は鏡に映るノアをじっと見つめた。安全地帯のこの部屋で、ひたすらノアの顔を愛でようと決める。
「そろそろ夕飯の時間だ。食堂に行こう」
ヴィンスに声を掛けられてお腹が鳴るけど、部屋を出たくない。部屋を出たらまたイケメンたちに口説かれるんだ。夕飯くらいゆっくり食べたい。
立ち上がらない僕にヴィンスは言いたいことは分かった、とでも言うように頷いた。
「足を休ませたいんだな。夕飯は部屋に持ってくる」
ヴィンスが部屋を出て行った。足は大丈夫だけど、勘違いしてくれて助かった。部屋から出なくていい。
程なくして扉越しにヴィンスが声を掛ける。
「ノア、歩かせて申し訳ないが、扉を開けてくれないか?」
「分かった」
返事をして扉を開く。ヴィンスは夕飯の乗ったトレーを二つ持っていた。
「ヴィンスも部屋で食べるの?」
「ああ、部屋で一人で食べるのはつまらないだろ?」
ヴィンスはテーブルにトレーを置く。
「ヴィンス……。僕はヴィンスが友達で本当に良かったよ!」
「どうした? 急にそんなこと言って」
手を合わせて、いただきます、と食べ始める。
この世界ではみんな僕を口説く。友達として接してくれるヴィンスは砂漠の中のオアシスのようなもの。イケメンじゃないけど、ヴィンスとの友情ルートに進みたい。
ヴィンスと話しながら食べるのは楽しかった。誰かとの食事がこんなにも楽しいことだと忘れていた。最後に誰かと一緒に食事をしたのがいつかも思い出せないほど長い間、僕は一人で食事をしていた。
僕はイケメンから逃げまくって、ヴィンスと友情を育むぞ!
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