カイル

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カイル

 ヴィンスと同じクラスでホッとしたのも束の間、剣の演習でペアを組まされたのはヴィンスではなく強面のイケメン。パッケージに載っていなかったからモブだろう。首を反らさないと顔が見えないほど背が高く、肩幅も広くてガッチリしている。  華奢な美少年であるノアの身体で剣を撃ち合うの? 中の僕は剣なんて握ったことのないひ弱だし。オロオロと戸惑っていると目線を合わせるように膝を曲げられた。 「調子が悪いのか?」 「ううん、大丈夫。……でも、僕は剣に自信がないからお手柔らかにね。マッチョくん強そうだし」 「変なあだ名をつけるな。俺には」 「ちょっと待った!」  名乗りそうだったから僕の手でマッチョくんの口を塞ぐ。モブの名前まで覚えられない。ヴィンスだけでじゅうぶん。  マッチョくんは顔を赤らめて視線を逸らす。寒気がして慌てて手を離した。筋肉で硬そうな身体とは対照的に柔らかかった唇の感触を消したくて、ズボンのポケットに手を入れてこっそり手のひらを拭う。  強面マッチョで硬派なイケメンとか、BLの攻めとしては大好きな属性だ。華奢で可愛い積極的な受けに翻弄されつつ溺愛してほしい。 「急に口に触れるなんて、積極的なんだな」  マッチョくんは指先で自分の唇を触った。触れたのではなく、名前を言われないために口を塞いだだけなのに。モブ×ノアルートのフラグが立っちゃったの?  ……ちょっと待ってよ。積極的って、さっき僕がマッチョくんの相手を思い浮かべたのが積極的な子だった。しかもノアは華奢な美少年。積極的になったつもりはないのに、マッチョくんにとっては、僕が思い浮かべた理想の受けになっている。  僕は口説かれたくない。よし、逃げよう。  ゆっくりと後退り距離を取る。もう一歩後ろに足を下げると人にぶつかって尻餅をついてしまった。 「大丈夫か?」  ハッとしたマッチョくんが膝を付いて心配そうに眉尻を下げる。顔はすごくいいんだよな。なんでモブなんだろ。 「ちょっと捻っちゃったかも」 「すぐに手当てをしに行こう」  教官に僕が怪我をしたことを伝えると、マッチョくんは軽々と僕をお姫様抱っこした。 「いや、待って。大丈夫だからおろして」 「悪化するといけないから」  僕を抱えたまま駆け出す。  本当に待ってほしい。BLではお約束だが、絶対に養護教諭は不在だから。このままではモブ×ノアルートに本格的に入ってしまう。
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